広島大学についてⒸUN Photo0 6越智 広島大学75+75周年記念講演では、中満さんのお話にオーディエンスも大変感銘を受けておられたようです。ありがとうございました。2017年にも、本学で「21世紀軍縮の課題」と題して、ご講演いただきましたね。中満 はい、その時は広島市内の東千田キャンパスでの講演でした。越智 200人以上の方々が参加し、熱心にお話を聞いていらっしゃいました。ここからはまず、国連での仕事についてお伺いしたいと思います。先程の講演によると、非常に多様な事業に携わっておられるようですね。中満 私の職務は、国連軍縮部の事務次長、軍縮担当上級代表です。軍縮部が担う仕事は本当に幅が広いです。日本では、核軍縮が一番理解いただきやすいと思うのですが、化学兵器や生物兵器の軍縮もあります。たとえば、韓国政府と年に一度、軍縮に関する会議をしているのですが、今年(2024年)のテーマは生物兵器、バイオリスクです。またAI、サイバー、宇宙の軍拡防止といった、新興技術や新しい領域における安全保障の問題も、とても重要な部分です。さらに言えば、小型武器問題ですね。広島大学ではこれからUNITAR(国連訓練調査研究所)と連携して、平和構築人材育成に取り組むと伺っていますが、小型武器の管理と規制は、現場の平和構築に直結している問題です。特にアフリカ諸国にとって、軍縮と言えば小型武器問題です。小型武器は、平和と安全の問題だけでなく、犯罪や女性へのドメスティックバイオレンスにも深く関わっています。残念ながら報道されることが少ないのですが、小型武器の規制も、私たちの非常に重要な仕事です。その他に、加盟国が立ち上げるさまざまな軍縮プロセスや、その前段階である課題設定のサポートもありますし、最近では若い専門家をもっと育成しなければという問題意識もあります。専門的な知識とコミュニケーションスキルを備えた若者のネットワーク化ですね。たとえば軍縮に興味を持つ日本の若者が、アジアやアフリカの若者とつながり、グローバルな軍縮人材になっていく、そうしたことも後押ししていきたいと思っています。越智 実に幅広いですね。AIの兵器化といった大きなテーマがある一方で、小型兵器の問題もある。軍縮に関して、国連が効果的に力を発揮しているのは、どの領域だと思われますか。中満 実際に貢献できているのは、やはり小型武器問題ですね。国連小型武器行動計画という大きな枠 組みがあるのですが 、今 年(2024年)6月の第4回再検討会議でもしっかりとした成果文書が出ています。途上国に対して平和構築のための小型武器管理基金を作るなど、新たな合意がありました。小型武器のように、大国間の利害関係に関わる領域でない分野では、物事が着々と進展していますね。越智 本来であれば大国、つまり常任理事国が、国連を通して世界平和をリードしなければならないのに、むしろ彼らが戦争に大きく加担するような現状があります。中満 おっしゃる通りですね。メディアなどでは「国連は機能不全に陥っている」という言い方をされることがあるのですが、国連すべてがそうではありません。最も機能不全で、紛争解決の責任が果たせていないのは、安保理(国連安全保障理事会)です。ウクライナやガザのように、常任理事国の利害が大きく絡む場合は拒否権が行使され、停戦決議案が採択されないのが現状です。国連は平和と安全保障のために作られた組織ですので、やはり平和分野で成果を出せないと、国連に対する国際社会の不信感は高まっていくのだろうと強く感じています。越智 国連に代わる新たな仕組みを作った方がよいという意見もあります。中満 大きな戦争を経ずにそれができればよいのですが、これまで国際機構を刷新する前には、必ず大きな戦争がありました。国連が効果的に機能するために、どのようにアップデートすべきかを考えることが現実的な議論だと考えます。今年(2024年)9月に国連未来サミットで採択された「未来のための協定」では、安保理改革について詳細に言及しています。たとえば国連発足当時、アフリカ諸国はほ とん ど が 植 民 地 で し た が 、そうし た“historical injustice(歴史的不正義)”を正案を作成することも盛り込まれているので、今後、具体的な動きにつながるものと期待しています。日本政府にも伝えたのですが、こと安保理改革については常任理事国任せでは進まないため、日本のような国が他の国々と協調しながら推進していくべきです。とりわけアフリカ諸国とタッグを組むことは非常に重要です。「日本が常任理事国に加わりたいかさなければならない、というかなり直接的な表現があります。常任理事国がないアフリカ、そして安全保障理事会のメンバーが少ないアジアや太 平 洋 地 域 の 諸 国 が“under-represented(軽視されている)”と指摘しています。また、全体としては、常任理事国が拒否権を使わないようにすべきだという認識も共有されています。G4諸国(日本、ブラジル、ドイツ、インド)案など、既に出ている安保理改革案を精査して、実現可能な共通 教育の特色キャンパスライフ学部・大学院教員・入試・オープンキャンパス・説明会・アクセス国連安全保障理事会の会合において、シリアの化学兵器使用を批判(2022年)広島大学創立75+75周年記念ホームカミングデーにて「未来へ〜平和で希望に満ちた世界を創る〜」をテーマに講演(2024年)小型武器から核兵器まで多様な領域にまたがる軍縮国連が効果的に機能するには安保理改革が不可欠
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