教育の特色キャンパスライフ学部・大学院教員・入試・オープンキャンパス・説明会・アクセス広島大学について1 6るのかを調べることで、植物の成長をコントロールし、より強く環境に適応した作物を育てるヒントが得られると考えています。 研究には、遺伝子研究に適したモデル植物であるシロイヌナズナを用いています。シロイヌナズナは、世界中の研究者が実験に利用しており、私も根毛の形成を制御する「転写因子」と呼ばれるタンパク質に注目して研究を進めています。転写因子は、遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする働きを持ち、根毛がつくられる過程に重要な役割を果たしていることがわかっています。しかし、研究を進める上で課題もあります。例えば、根は土の中にあるため観察が難しく、実験方法を工夫しなければなりません。また、遺伝子の働きを一つひとつ解明するには、多くの時間と努力が求められます。それでも、新しい発見をするたびに「植物の秘密に近づいている」と実感できることが、研究の醍醐味です。 この研究が進めば、植物制御工学を使って、複雑な現象を思い通りに操るため技術を開拓し、安全かつ豊かな社会作りへ貢献することを目指して研究をしています。 「群れ」は研究におけるキーワードの一つです。例えばトビバッタは大量発生すると農作物を食べ尽くし、深刻な被害をもたらします。このバッタの群れの動きを再現するシミュレーションにおいて、集合フェロモンの配置を通じて群れの進路を変えて、最終的に海などへ誘導して農業被害を防ぐ研究をしています。また、魚群の向かう先を効率的かつ確実に操るための、群れへの外部刺激の与え方を効率的に明らかにするための理論を構築し、その有効性をシミュレーションで確かめています。 最近は気象の制御に注目しています。例えば近い将来に、地上や海上で吹く風の強さを我々が調整できるようになったとしましょう。この調整を「どこで」「どれくらい」行えば雨の量を減らせるでしょうか。最も良い調整を見出すために、私の研究ではブラックボックス最適化手法と呼ばれる技術を活用し、まずはシミュレーションにおいて雨が減らせることを確認しています。図の左が風の調整の根の形を改変し、水や栄養をより効率的に吸収できる作物を育てることができるかもしれません。それにより、限られた資源での食糧生産向上や、持続可能な農業の発展に貢献できると考えています。 将来の進路に関わらず、「なぜだろう?」と疑問を持ち、それを解明しようとする姿勢は、どの分野でも役立ちます。高校生の皆さんには、興味を持ったことを大切にし、積極的に挑戦してほしいと思います。情報科学部大学院先進理工系科学研究科 教授を行う前、右が行った後で、制御対象の地域では降水量を約4%削減できることがわかりました。これは小さな成果ですが、気象制御の実現に向けた大きな一歩です。 私が取り組む研究は、情報科学や数理の知識と技法を駆使して、シミュレーションを通じて、現実の社会課題に対する解決策を示唆できることが大きな魅力です。高校生の皆さんの新鮮な発想が、未来の社会を大きく変える可能性を秘めています。一緒に複雑な現象を操り、よりよい社会の実現につながる技術基盤を作りましょう。シロイヌナズナの根毛が少ない変異体(右上)と多い変異体(右下)160mm豪雨の見られた地域における降雨量減少を目的として制御を実施100mm20mm風量調整のシミュレーション。青い地域で降雨量が削減された。制御前:積算雨量の分布 制御後:積算雨量の変化20mm増加変化なし20mm減少生物生産学部大学院統合生命科学研究科 教授理学 植物は、私たちの生活に欠かせない存在です。食料を提供し、空気をきれいにし、生態系のバランスを保つ重要な役割を担っています。しかし、植物がどのように成長し形をつくるのか、その仕組みにはまだ多くの謎が残されています。私は、その「植物の形づくり」に関わる遺伝子の働きを研究しています。 研究を始めたきっかけは、植物の根に生える「根毛」に興味を持ったことです。根毛は、土の中の水や栄養を吸収する重要な役割を担っています。この根毛がどのようにしてでき もし雲の発達を抑えこむことができるようになり、豪雨のような自然災害を軽減できるとしたらどうでしょうか。アフリカなどで農作物を食い荒らすトビバッタの群れの行き先を操ることができるようになり、農業被害を小さくできたら? 群れをなす魚たちを操り、魚に来てもらう漁業が実現したら? このように複雑な現象を思い通りに操れるSF映画のような未来は決して夢物語ではありません。 制御工学―聞き慣れない言葉かもしれませんが、実は私たちの生活を支える重要な技術です。機械や自然現象のふるまいを予測し、狙ったとおりに動かすことを可能にします。例えば自動車の自動運転やロボットの動作制御など、世の中の様々な場面で活用されています。この地域内の積算降雨量を4%削減冨永 るみ●専門研究分野/植物分子生物学、植物生小蔵 正輝●専門研究分野/制御工学、複雑システム科学複複雑現象を自由自在に操り、よりよい社会を実現する。植物の根の仕組みを解明し、持続可能な農業へ。植物の根の仕組みを解明し、持続可能な農業へ。
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