温度 09クォークとグルーオンの多体系の状態変化の様子。宇宙初期、中性子星などとも関連する。〈背景写真〉2023年11月に滞在したニールス・ボーア研究所は、現代物理学の父、ニールス・ボーアゆかりの研究所高エネルギー原子核衝突後の系の時間発展の様子時間初期宇宙臨界点?中性子星内部放射光(光速まで加速された電子が放出する電磁波)は、あらゆる波長の光を含むため、物質の種類や構造、性質を詳しく調べることができます。カラー超伝導相?密 度熱平衡流体膨張ハドロン化電子クォーク・グルーオン・プラズマハドロン放射光科学研究所フリーズアウトNONAKA CHIHO専門研究分野原子核物理、ハドロン物理原子核衝突さんは「クォーク」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。現在、クォークは物質の最小構成要素であると考えられています。このクォークとクォーク間の相互作用を担う「グルーオン」は我々の日常世界では陽子や中性子の中に閉じ込められています。ところが、高温・高密度のような極限条件では「閉じ込め」から解き放たれてクォークやグルーオンが自由に動きまわる「新しい物質」に状態が変化すると考えられています。この新しい物質を「クォーク・グルーオン プラズマ (Quark Gluon Plasma, QGP)」と呼びます。このQGPは決して仮想的なものではなく、実際には宇宙の始まりであるビッグバン後10万分の1秒後に存在したと考えられています。さらに驚くべきことには、地球上で人工的にQGPを作り出すことに成功しているのです。 さて、どのようにQGP生成に成功したのでしょうか。これは高エネルギー原子核衝突実験によって成されました。1970年代より一連の原子核衝突実験が行われてきました。そして2000年に米国•ブルックヘブン国立研究所理学部大学院先進理工系科学研究科 教授にある衝突型加速器、Relativistic Heavy Ion Collider(RHIC)が稼働し、2005年にQGPの生成に成功という結論に至りました。ここでQGPの「発見」ではなく「生成に成功」という言葉に違和感を覚えた方もいるかもしれません。と言いますのも、実は我々はQGPを直接観測することはできないのです。最初に述べたようにクォークやグルーオンは通常は陽子などに閉じ込められています。そのため実験で観測されるのはすべて陽子などのハドロンや光子になります。そこで重要になるのが理論による実験結果の解釈です。つまりQGPの生成を取り入れた理論を構築し、それで実験結果が説明できるかどうかを調べます。当時さまざまな理論が提唱されましたが、特に成功を収めたのが、「相対論的流体模型」と呼ばれる理論でした。この模型によってさまざまな実験結果の理解に成功し、現在では高エネルギー原子核衝突実験のダイナミクスを記述する標準的な模型になっています。 我々はこの相対論的流体模型を用いた解析をRHIC稼働前から行ってきました。衝突後に生じる粒子を流体で記述するという大胆ともいうべき模型を本気で行っているグループは世界的に見ても少数派でした。ところがRHICでの成功で一躍注目を集めることになりました。このように研究において何が成功し、何に注目が集まるかはわからないところがあります。研究の難しさであるとともに面白さでもあるでしょう。「知識はすべて実験によって検討される」ということを念頭にさらに研究に邁進したいと思っています。クォーク・グルーオン多体系の状態変化放射光広島大学の研究最前線!放射光で物質を“視る”。次世代技術の創出と社会実装を目指す先端融合研究がスタート!文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」採択広島大学が擁する「放射光科学研究所」は、国立大学唯一で世界的にも希少な紫外線(UV)領域の放射光実験施設です。本学では、神戸大学をはじめとする国内外の大学や研究機関とともに、放射光によって物質の種類や構造・性質を「視える化」する技術を核とした半導体・超物質・生命科学領域の先端融合研究を進めています。野中 千穂クォークから宇宙のはじまりを解き明かす。皆
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