●※2023年2月28日現在13医学部大学院医系科学研究科 准教授型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で、皆さんは大変な高校生活を送られたことでしょう。実は、皆さんの多くがまだ幼かった2009年にも、日本は感染症の脅威に見舞われたのをご存知ですか? それは、H1N1インフルエンザウイルスでした。それまでインフルエンザは、ちょっと強めの風邪という認識でした。しかしH1N1インフルエンザでは、人工呼吸器でも呼吸を維持できないくらいの重症呼吸不全になる患者さんが多発しました。 その頃私は、広島大学病院の救急集中治療科に赴任したばかりでした。目に見えない得体の知れない感染症に、世界中が恐怖を感じました。ちょうどCOVID-19が流行し始めた頃と似ていますね。そんな中、体外式膜型肺(ECMO)という機械を使えば、危篤状態の患者さんでも救命できるという報告が、海外から入ってきました。 しかし、当時の日本では、ECMOを使用しても多くの患者さんを救命できませんでした。なぜだと思いますか? それは、ECMO使用中の患者さんにおける治療の特殊性―治療期間が長期にわたる重症呼吸器不全では、感染症や合併症、血栓などへの対応が必要であることや、心臓・腎臓・脳などへの負担が大きいため全身管理が重要であることが、当時の日本ではまだ熟知されていなかったからでした。重要なのはモノだけでなく、ヒトの育成もだったのです。それから私は、当時ECMO先進国と考えられていた米国・英国・スウェーデンで、ECMOのノウハウを修行してきました。広島大学では、同じ志をもった救急集中治療医たちと協力し、全国の医師・看護師・臨床工学技士を対象に、ECMO講習会を繰り返し開催してきました。 そして、2019年のCOVID-19パンデミックを迎えました。私たちを含む全国の救急集中治療医は、この10年間で培ったECMO管理・治療技術を発揮しました。自施設を超えたネットワークを活かして、医療崩壊しかけていた地域の医療支援活動も行いました。その結果、ECMO管理を受けた重症COVID-19患者さんの生存率は65%と、世界でトップレベルの成績を達成することができました。広島大学病院でのECMOの症例数は全国トップレベルで、直近1年間の生存率は93%。勉強のために全国から医師が集まるようになりました。 しかし、今もまだ救えない命があります。広島大学では、強い自発呼吸が肺を壊してしまうメカニズムやその治療法を、動物モデルを用いて研究しています。また、救急集中治療医は病院内だけでなく、ドクターヘリ・DMAT(災害医療)など病院外で活動することも多い職種です。この特性を活かし、重症患者搬送にも力を入れ、さらなる救命率向上を目指しています。 医療は、人々が笑顔で安心して生活するためにとても重要です。これまで不可能と考えられていた治療を可能にするのは、医師としても研究者としても、とても大きな魅力です。新しい時代を担う皆さんと一緒に、一人でも多くの人を笑顔にできる未来を築いていけることを楽しみにしています。専門研究分野重症呼吸不全、人工呼吸、体外式膜型肺(ECMO)もともと救急集中治療医だったのではなく、呼吸器内科を専門として、長く間質性肺炎(肺胞の間の組織が炎症を起こす肺炎)を研究してきた大下准教授。「呼吸器内科医は全身を診る力が必要」という恩師の方針で、高度救命救急センター・集中治療部に配属。その半年後にH1N1インフルエンザの流行に遭遇し、ECMOの重要性を経験した。「あと1年配属が遅ければ今の私はなかったと思う。人生には不思議な縁があると感じる」と語る。自立した世界的研究拠点へと成長する可能性のある研究拠点を選出し、重点支援を行います。●●●ポリオキソメタレート科学国際研究拠点オルガネラ疾患研究拠点都市―農村流域圏の健全循環創成(SATO NET創成)MBR拠点ECMOの膜型人工肺。体内から静脈血を抜き、表面に微小な孔がたくさんある、中が空洞になっている細い糸(外径0.2〜0.3㎜)を介して二酸化炭素と酸素の交換を行い、血液を再び体内に戻す。ECMOがガス交換機能を代替することで、炎症を起こした肺を休ませて回復を促す。作動中の膜型人工肺。重症呼吸不全ではECMOの装着期間が長くなるため、人工肺を迅速に交換できる医師・臨床工学技士、血栓・出血等の管理を適切に行える看護師といった熟練のスタッフの存在が欠かせない。医師や医療従事者の練度や聴感に依存せず、呼吸音を数値で「見える化」する呼吸音モニタリングシステムを国内医療機器メーカーとの共同研究で開発した。現在は集中治療室・手術室の重症患者モニタリング、在宅患者・ホテル療養者の遠隔医療における開発を進めている。救急集中治療医は、ドクターヘリなど病院外で仕事をするための訓練を受ける。救急集中治療医が診療する患者はプロトコル(あらかじめ定められている治療手順・計画)がないことも多い。全身を診て必要な手当てを迅速に判断し行う能力が求められる。インキュベーション研究拠点OHSHIMO SHINICHIROアジアにおける都市−農村の健康循環のための新たな学術研究分野の創成〈都市−農村流域圏の健全循環創成(SATO NET創成)〉都市農村流域圏の健全循環創成拠点は、都市化の進むアジアにおける都市とその周辺との健全な循環(人、食糧を含む)の創成を目標としています。里山・里海は、人間が積極的に手を入れることで自然資源をより活性化させ持続的に活用する発展的な共生であり、日本における独自性の高い環境創成システムです。本拠点の取組は、瀬戸内海流域での成功事例をもとに、アジア諸国での課題解決に資する新たな学術研究分野の創成を目指すものであり、SDGsにも貢献するものです。世界トップレベルの研究拠点の創出へ大下 慎一郎新ECMOと向き合ってきた10年─救えない命を救うために─
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