11広島大学FE・SDGsネットワーク拠点(NERPS)は、本学に限った組織ではなく、広く世界に開かれたネットワーク拠点であり、次の3つの特徴を持つ教育研究拠点になることを目指しています。1 国際通用性のある研究力に裏づけられた平和、地球環境、SDGsに関係する研究拠点2 人文社会科学の研究者も参加する問題解決型教育研究拠点3 個人、NGOs、企業、政府、国際機関など多様なアクターがグローバルに連携する教育研究拠点※FE:future earth(フューチャーアース)の略。地球環境研究に関わる科学者の国際的なネットワークです。さんは、「株式」と聞くと何を想像しますか。将来のための投資、お金儲け、などでしょうか。中には良いイメージを持っていない人もいるかもしれません。私の研究は、その「株式」を対象としていて、現実の株価が経済理論と整合的なのか、価格が正しいのか、などを問題としています。 研究対象として株式が面白い点はいくつかあります。まず、投資家が取引所に出す注文の需給を反映して、非常にシンプルなルールで価格が付けられているということです。取引の時間帯によりますが、高校で勉強したように需要曲線・供給曲線の交わるところで価格が決まります。次に、株価は将来の予想を織り込むということです。株価の変動は投資家の注文によって生じます。投資家は、「将来業績が改善する予想」や「将来の経済の見通し」をもとに、今いくらで買うべきなのか、売るべきなのかを判断しています。そういった投資家の持つ将来の予想が注文に反映さ経済学部大学院人間社会科学研究科 准教授れ、その結果、株価には新しい情報が織り込まれていきます。そして、投資家が株式をどれだけ保有するかは合理的な意思決定の結果であるという点です。経済全体で見ると、投資家がどのようなリスクに対する好みを持っているのか、といったことが株式リターンと関係しています。 私がこの分野に興味を持ったのは、学部の証券市場に関する授業でした。経済学のモデルは仮想的なものですが、その経済理論で説明できるような構造が現実の世界に存在するかもしれない、ということに強く興味を惹かれました。しかし、実際には、経済変数の変動を統一的な理論で説明することは簡単ではありません。 株式市場で理論と整合的でない事象のことをアノマリーと呼びますが、その一つに「性質の異なる企業間の株式リターンの違いを理論で説明できない」というものがあります。これは古典的ながら現在も多くの研究が行われているテーマで、私自身もこのアノマリーを解決するような研究を進めています。 近年の研究では、企業の配当のタイミングが株式リターンの違いに反映されているのではないか、という議論があります。例えば、株式購入後すぐに多くの配当を受け取れる企業と、購入時点では配当支払いを行っておらず10年後に初めて配当が受け取れる企業があったとします。前者は成熟企業、後者は配当株価若い成長段階にある企業である傾向があります。投資家にとってリスクが高いのは一体どちらでしょうか。皆さんの直観と異なるかもしれませんが、現実のデータから見ると、実は前者の方が高リスクであることが知られています。ファイナンスの理論はハイリスクハイリターン、つまりリターンが高いのはそれだけリスクがあるという考え方です。成熟企業が今、リターンが高いのは何らかのリスクを反映しているはず。この現実を理論的に説明するにはどうすればよいのか、世界中の研究者によって研究が進められています。 経済学は社会科学の一分野ですが、社会に対するアプローチの仕方は経済学以外にもたくさんあります。大学では、さまざまな経験や勉強を通して、皆さんが本当に面白いと思うことに辿り着いてもらえたらと思います。配当株価年年SDGs17の目標のうち、「目標4(質の高い教育をみんなに)」、「目標16(平和と公正をすべての人に)」に優先的に取り組み、SDGs全目標に貢献するという姿勢をイメージしたデザインです。学部3年生のゼミでは、毎年レポートコンテストに参加。ゼミ内のチームごとに投資テーマを決め、テーマに沿って企業を選び、ポートフォリオ理論に基づいた分析を行う。将来の配当がいつ、いくら支払われるかは企業によってさまざま。直近の配当が多いA社と遠い将来の配当が多いB社では、どちらが高リスクだと考えられるだろうか。専門性が高い仕事は一般的に自分の裁量が大きく、研究職もその一つ。山根准教授は「文系学部は学部卒で就職する学生が多いが、学問が好きならば、国内にこだわらず海外の大学で研究職に就く生き方もある。ライフイベントがキャリアに影響しがちな女性だからこそ、プロフェッショナル職を目指してみては」と語る。ネットワーク型研究拠点広島大学FE※・SDGsネットワーク拠点Network for Education and Research on Peace and Sustainability〈NERPSロゴ〉将来の配当予測値 (1年後〜12年後)A社(海運)B社(情報・通信)YAMANE AKIKO専門研究分野ファイナンス、資産価格理論、アノマリー山根 明子世界トップレベルの 株式市場のアノマリーを解決する。皆
元のページ ../index.html#12