広島大学案内2024-2025概要版
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●●●●●●●●●●●●●●※HiSIM(Hiroshima-University STARC IGFET Model )は、広島大学が半導体理工学研究センター(STARC)と共同で開発した回路設計用トランジスタモデル14さんは「リモートセンシング」という言葉を聞いたことがありますか。リモートセンシングとは、日本語で「非接触計測」という意味で、よく「リモセン」と略されます。簡単に言うと、衛星、ドローン、気球などにカメラをつけて、地上の物体を撮影し、地図化することを言います。私の専門は、リモセンの中でも「海や湖」などの水環境を対象としています。最近は、地球温暖化によって水温が上がったり、水位が上昇したりして、漁業や生活に支障をきたす問題も多く、リモセンによる健康診断が期待されています。 私がこの研究に出会ったのは大学生の時に、「シジミ」で有名な島根県の宍道湖を対象として、「シジミが生息する湖岸部だけが水がきれい(濁っていない)という仮説を衛星データで証明してくれないか」と指導教員の先生に言われたことでした。この事実は嘘のような本当の話で、シジミは水中に含まれる懸濁物質をろ過し両生類研究センタートランスレーショナルリサーチセンター防災・減災研究センター脳・こころ・感性科学研究センターゲノム編集イノベーションセンターデジタルものづくり教育研究センターAI・データイノベーション教育研究センターて、栄養を取って生きているので、シジミが生息している湖底より上層部は、濁りがなくなって水が澄む傾向にあるのです。では、どのような原理でこの濁り(正体は葉緑素)の分布を測るのでしょうか。実は、衛星の中には葉緑素を専門に計る海色センサーがあります。葉緑素は可視光の青と赤の光を吸収し、緑の光だけが残る性質を持ちますのでこの吸収の度合いを測ることで衛星から葉緑素の大小を観測することができます。ただし、この海色センサーは、たいてい解像度が1㎞程度ですから、宍道湖のように20㎞×5㎞くらいの湖で、しかもシジミが生息している湖岸はせいぜい1㎞程度ですので、ほぼ画像では表現できないという欠点がありました。そこで、私は主にフランスのSPOTと呼ばれる解像度が20mの衛星画像を使って、宍道湖の葉緑素を測る方法を考案して、博士号を取得しました。そして、シジミが生息する水域は、日常的ではないものの平均的には「きれいであIDEC国際連携機構A-ESG科学技術研究センターTown & Gown未来イノベーション研究所PSI GMP教育研究センターダイバーシティ&インクルージョン推進機構瀬戸内CN国際共同研究センターグローバルキャンパス推進機構全国共同利用施設放射光科学研究所光速に近い電子が電磁石によって進む方向を変える時に「放射光」が発生します。この光は強力で、しかもさまざまな波長を含むことから「夢の光」と呼ばれています。本研究所の研究成果は『Nature』や『Science』などのトップジャーナルに掲載されています。る」(濁っていない)ことが判明しました。 このような経験を経て、すっかり「リモセン」に魅了された私は、大学教員になってからも、リモセン技術を使って海や湖の環境を地図化する研究に没頭しました。そして、今は衛星・ドローン・気球(図1)等を使って「葉緑素」だけでなく、サンゴ礁(図2)や藻場の地図化も研究の対象となっています。研究の最後には必ず、船に乗って検証する必要があるので、私の研究室では図3のような船舶観測が日常的に行われています。幸い、広島大学には、気軽に利用することができる調査船や協力してくれるたくさんの研究室がありますので、共同で新しい研究をどんどん生み出しています。このように衛星リモセンという最先端の技術を使いながら、船舶調査もするというリアリティが評判で、この分野の教育や研究は学生から大変人気が高いです。水環境の測定や診断に興味を持つ学生たちとともに、今後も研究に励みたいと考えています。工学部大学院先進理工系科学研究科 教授藻場の地図を作るための観測気球による水面撮影実験(図1)衛星からサンゴ礁の地図を作るための水族館水槽での室内実験(図2)広島市の衛星写真(背景)と温度画像(上)。太田川とその支流からなるデルタ市街地の温度が高いことがわかる。衛星が計測する海の色や温度の精度を検証するための船舶現地調査(図3)SAKUNO YUJI専門研究分野水環境リモートセンシング100年後にも世界で光り輝く大学へ ▼▼▼世界をリードする研究者 特色ある研究施設・拠点作野 裕司衛星・ドローン・気球から海や湖の健康診断をしたい! 皆

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