12さんは、農作物の収穫量を増やすためにはどのような工夫をすれば良いと思いますか。例えば、作物が病気や害虫に対する抵抗性を獲得することは収穫量を改善するための工夫で、世界中の多くの研究者が取り組んでいるテーマです。最近では、多発している異常気象や気候変動の問題から、環境ストレスに対して耐性を持つ作物の品種改良を目指した研究も盛んに行われています。そしてあまり知られていませんが、農作物の形づくりを改変することも収穫量を増やすための工夫の一つです。 1940年代から1960年代かけて実施された大規模な農業革命「緑の革命(Green Revolution)」は、人類の長い歴史の中で、農作物の形づくりの改変が作物収穫量の向上に最も貢献した出来事です。緑の革命以前のコムギやイネの品種は、肥料を与えると茎が伸長し雨風などの影響を受けて倒れやすい特徴がありました。この革命で開発された茎が伸長しない半矮性品種(やや背丈が低い品種)は、暴風雨などでも倒れにくい性質(耐倒伏性)を発揮し、結果的にそれら穀物の収穫量の大幅な増産を実現しました。このように、形づくりの改変は作物の品種改良に非常に有用ですが、その改変のためには作物がどのような仕組みで形づくりを行っているかということを理解する必要があります。 私たちの研究チームは、イネの形づくりを遺伝子の働きから解明することを目指して研究を行っています。研究の特色は、お米の収穫量に直接影響する花や分げつ(イネの枝)などの形づくりに着目している点です。最近私たちは、お米のもとになる「胚珠(はいしゅ)」を作るために働く遺伝子を発見しました。胚珠は、雌しべの内部に存在し花の外見からは確認することができませんが、雄しべと雌しべが受粉すると種子(お米)になる重要な花器官です。以前は、胚珠が形成される際にどのような遺伝子が働いているのかということに関する研究はほとんど行われていませんでした。私たちは、種子を形成しない■■■■変異体(■■■■遺伝子の機能が失われた突然変異体)を解析し、その変異体では雌しべの内部にあるはずの胚珠が欠失していることを発見しました。つまり、■■■■変異体では正常な胚珠が形成されないので、種子がまったく稔らないということです。詳しい形態・分子レベルでの解析を実施し、イネの■■■■遺伝子が、正常な胚珠の形成を促し、最終的には種子(お米)の形成を促進する重要な働きをしていることを明らかにしました。 緑の革命から約60年経過した現在、増え続生物生産学部大学院統合生命科学研究科 准教授ける世界人口により食糧問題は一層深刻化しており、農作物の収穫量増加につながる更なる研究成果が求められています。また、近年の気候変動に対して耐性のある作物を作出することも急務の研究課題です。私は、引き続きイネの形づくりを制御する遺伝子について研究し、その成果を活用することでお米の安定供給や増産に貢献する新しい育種技術を開発したいと考えています。 広島大学には、ほかにも多様な植物分野の研究者が所属しており、それら研究者が参画する研究拠点「次世代を救う 広大発 Green Revolution を創出する植物研究拠点」が設置されています。研究チームの枠を超えて共同研究を行ったり、切磋琢磨しながら研究を推進したりできる素晴らしい環境の下、植物研究を通じて社会に貢献することを目指しています。イネの花と雌しべ内部に存在する胚珠。■■■■変異体では、雌しべの形態は一見普通だが、その内部に胚珠ができない。 〈背景写真〉水田栽培のイネ。水田では、実験室ではできない大規模なイネの形質調査や収量調査を行う。広島大学の圃場で研究室の学生と一緒にイネの移植を行っている様子。遺伝子の研究を行っている関係上、イネは個体ごとにバケツに植えて栽培している。通常のイネ雄しべ雄しべ雌しべ雌しべ■■■■■変異体雄しべ雄しべ胚胚珠珠雌しべ雌しべ理工系分野の女性大学院生を対象とした奨学金制度TANAKA WAKANA専門研究分野植物発生学、植物育種学科学技術分野で活躍する意欲のある女性の博士課程後期学生を「理工系女性リサーチフェロー」として採用し、研究専念支援経費(生活費相当額)と研究費を支給し、研究に専念できる環境を提供します。さらに博士課程後期に進学する意欲を持つ博士課程前期の学生への支援も行い、支援を受けた学生が本学の博士課程後期に進学した場合は、「理工系女性リサーチフェロー」への採用を保証します。広島大学女性科学技術広島大学女性科学技術フェローシップ制度フェローシップ制度100年後にも世界で光り輝く大学へ ▼▼▼世界をリードする研究者田中 若奈皆イネの形づくりを理解してお米の安定供給に貢献したい。
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