09法学部大学院人間社会科学研究科 准教授の最近の研究対象は、TPPやRCEPといった日本が参加する自由貿易協定を結ぶための交渉です。新聞報道などで名前だけは聞いたことがあるという方も多いかと思いますが、その内容や交渉過程についてはあまり知られていません。他方で、これらの協定の締結が私たちの生活に与える影響はたくさんあります。例えば、最近ではスーパーで買い物をするとき、南米や東南アジアから輸入された商品を多く目にするようになりました。これは、日本がこれまで結んできた自由貿易協定の効果といえます。 ただし、実は、私が研究を始めた頃はまだ日本はこうした自由貿易協定には積極的に参加しておらず、私の研究対象も当時最大の貿易相手国であり、また頻繁に貿易紛争が発生していたアメリカとの貿易交渉でした。現在の日米関係は、政治・経済ともに良好なため、信じられないかもしれませんが、貿易上の紛争が悪化して一時は日米が開戦間際であるということがまことしやかに語られた時代もあったのです。そして、こうした状況は何かに似ていると思いませんか。―そうです。現在の米中関係にそっくりです。日米関係と米中関係では、政治・安全保障上の緊密さが全く異なる一方で、アメリカが大幅な貿易赤字を抱え、その改善を要求して貿易紛争が激化するという構図はほとんど同じです。そのため、私が中国人留学生と現在の米中間の貿易紛争について議論するときは、かつて日本がアメリカとの貿易紛争を交渉によって解決してきたことを踏まえ、継続的で緊密な外交交渉の重要性をお話ししています。 私の貿易交渉に関する研究は、先行研究分析と主に新聞・雑誌・官公庁の資料からの情報収集、さらに交渉担当者へのインタビューなどから始まります。アメリカが主要な交渉相手国であるときは、情報収集は比較的容易でしたが、現在は日本の交渉相手国が大幅に増加し、また情報源が限られる交渉相手国も含まれるため、情報収集に苦労することが多くなりました。今後は、より幅広い人的ネットワークを構築し、多様な情報源にあたるようにする必要があると考えています。 私が専攻する国際政治経済学は、研究対象がとても広い分野です。私の研究はここでご紹介したように日本の貿易交渉が中心ですが、国際政治経済学には、ほかにも金融・開発・環境などが含まれます。授業では、学生が幅広い知識を獲得し、現在の複雑な国際社会を読み解くための道具を提供しています。日々刻々と変化する国際情勢に対して、学生が自分なりの見方と意見を持つための手助けとなれるよう取り組んでいます。ゼミ形式の授業では、国際政治経済学のテキストを輪読しつつ、政治経済の時事問題についても幅広く議論している。日米関係のプロジェクトに参加した時の一コマ。ワシントンの研究者や政策決定関係者から直接話を聞いた。電子放射光(光速まで加速された電子が放出する電磁波)は、あらゆる波長の光を含むため、物質の種類や構造、性質を詳しく調べることができます。放射光科学研究所CHOKYU ASUKA専門研究分野国際政治経済学次世代技術の創出と社会実装を目指す先端融合研究がスタート!文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」採択広島大学が擁する「放射光科学研究所」は、国立大学唯一で世界的にも希少な紫外線(UV)領域の放射光実験施設です。本学では、神戸大学をはじめとする国内外の大学や研究機関とともに、放射光によって物質の種類や構造・性質を「視える化」する技術を核とした半導体・超物質・生命科学領域の先端融合研究を進めています。放射光広島大学の研究最前線!放射光で物質を“視る”。長久 明日香私貿易紛争から自由貿易協定へ。
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