広島大学案内2023-2024概要版
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12が研究室に配属された30年前、最初に先生に言われたことが、「産業革命から100年で、大気中のCO2濃度が70ppm増えてしまった。このままだとあと100年もしないうちに400ppmになってしまうよ!」(当時は350ppm)でした。そして石灰藻に光合成と石灰化をさせてCO2をどれだけ削減できるかをテーマに、バイオミネラリゼーション研究をスタートしました。光合成はカーボンニュートラル(有機物に変換したCO2と有機物使用で発生するCO2は等量)ですが、石灰(炭酸カルシウム)にして沈殿させた分のCO2はカーボンリダクションになります。 現在は、金属イオンを化合物結晶に変換する細菌の研究を行っています。その中でも半導体結晶と同じ性質の結晶を合成できる細菌を獲得して、半導体の製造過程を生物変換方法に代替したらCO2を大幅に削減できないかな、という壮大な夢を持ってバイオミネラリゼーション研究を続けています。デジタル化社会において半導体の重要性は増すばかりですが、製造過程で排出されるCO2の削減も重要な課題です。夢を無理だと諦めますか? 私が研究者になった30年前から、CO2はさらに70ppm増えました。誰かが何かしないと、何も変わらないどころ工学部大学院統合生命科学研究科 教授か、状況はどんどん悪くなっていくのです。 広島大学工学部生物工学プログラムの教員は、微生物の発酵能力を最大利用する技術開発を行っています。発酵でCO2を有機酸に変えることに成功し、化成品(化学合成によって作られた物質)原料に変換する研究へと展開中です。これまでの生物工学は微生物が合成できる物質に限定されていましたが、ゲノムDNA情報がビッグデータ化している現在、DXやAI技術で作りたい物質の合成回路を遺伝子配列で記述してモノづくりをするフェーズに入りました。そこで私のもう一つの研究では、未知微生物のゲノムから有用物質合成遺伝子を発見し、その配列情報をもとに新たな遺伝子配列を合成しています。未知微生物の多くは難培養のため、ゲノム配列を解読する程度の極少量しかDNAを入手できません。従って、配列情報からDNAを作る技術が必要になり、開発しました。私の今後の目標は、作りたい物質を先に規定し、遺伝子配列のビッグデータから新たなDNAを創り出すといったバックキャスティング型の研究開発です。 以前からCO2を資源として活用する構想はありましたが、当時は一部の科学者の夢でした。しかし現在では、CO2をエタノールに変換科学技術分野で活躍する意欲のある女性の博士課程後期学生を「理工系女性リサーチフェロー」として採用し、研究専念支援経費(生活費相当額)と研究費を支給し、研究に専念できる環境を提供します。さらに博士課程後期に進学する意欲を持つ博士課程前期の学生への支援も行い、支援を受けた学生が本学の博士課程後期に進学した場合は、「理工系女性リサーチフェロー」への採用を保証します。し、エタノールから衣料品などに多く使われるポリエステルを生み出すことも可能です。石油を使わずCO2からモノづくりをすれば、カーボンリダクションになるでしょう。世界中が2050年までにこれを実現しようとしています。CO2からモノづくりをする未来を目指し、次世代の研究者たちとともに、これからも研究に励みたいと思います。〈背景写真〉自然界から分離したCd(カドミウム)回収細菌。直径が数ナノメートルの非常に小さな半導体量子ドットを作っている。500nm遺伝子組換えによって金属テルル(レアメタルの一種)合成能を付与した大腸菌石灰藻(円石藻):石灰の石を細胞壁の代わりに纏う。海で収集したバクテリアのサンプル。同じ場所で採取しても学生によって分離される細菌が異なる。岡村教授は「無限にパターンがあって多様なところが、バイオ研究の難しさであり面白いところ」と語る。CdSナノ粒子結晶1μm細菌理工系分野の女性大学院生を対象とした奨学金制度OKAMURA YOSHIKO専門研究分野バイオミネラリゼーション、微生物ゲノム広島大学女性科学技術広島大学女性科学技術フェローシップ制度フェローシップ制度100年後にも世界で光り輝く大学へ ▼▼▼世界をリードする研究者岡村 好子 私生物変換を利用して二酸化炭素を削減したい。

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