広島大学案内2023-2024概要版
10/32

総合科学部大学院先進理工系科学研究科 准教授紐やイヤホンのケーブルなどが絡み合っているとき、どんな絡まり方をしているか考えることはありますか? 私の研究テーマは、このような“紐の絡み”を数学的に扱う結び目理論です。この分野は数学の中のトポロジーと呼ばれる分野の一部です。トポロジーではモノの形を扱います。特に、モノを連続的に変形させたときに保たれる性質について研究します。私の研究では、紐を数式に対応させることで、捉えどころのない紐の形を、数学の枠組みで取り扱えるようにします。一旦数学の言葉に置き換わると、数学の多様な知識が使えます。これらの数学的知識を使うことによって、最終的に紐の形を知ることができます。ただし、現在でもすべての紐の形がわかっているわけではありませんので、考えることはまだまだたくさんあります。 このような研究をして、どんな役に立つの? と思われるかもしれませんが、役に立たなくても何かを解明するということは私にとってとても面白いことです。とはいえ、実際役に立つことも知られています。紐状の物質はあらゆるところに存在します。例えばタンパク質やDNA、高分子化合物などは、紐であると考えることができます。紐に対して私たち数学者が研究してきた基礎理論が応用され、物質の性質が解明されています。私も現在、異分野の研究者と融合研究に取り組んでいます。私が融合研究に興味※広島大学が中国・四国地方初の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)として採択された「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点」。小鳥居准教授は本研究拠点に副拠点長兼主任研究者として参加している。〈NERPSロゴ〉を持ったきっかけの一つは、大学院生の時に英国の大学に数カ月留学したことです。そこでは、数学と生物、数学とアートといった異分野交流を活発に行っていました。この時の経験から、これまで数学の勉強しかしてこなかった私でも、他分野の研究者と協力することで、数学以外の分野にも貢献できることを学びました。 私の所属する総合科学部では、学生が興味を持った講義を、分野を超えて受講することができます。複数の分野に興味がある学生、まだ自分の興味の方向性が明確に決まっていない学生に適した環境があります。複数分野の専門知識を持った学生は、これまでにない斬新なアイデアを持つことができると私は考えています。また、さまざまな分野を勉強する友人を得られるということも、総合科学部の魅力の一つだと思います。 私が参加しているWPI※の活動も、総合科学部と同様に、学問的にマルチリンガルな学生を育成する教育を目指しています。数学や物理、化学、生物、地球惑星などのさまざまな分野を国内外の専門教員が指導し、多くの外国人学生と活動してもらうことで、新たな研究領域を切り開く人材を育てていこうとしています。WPIの今後の教育研究成果に、ぜひご期待ください。宮島でのアウトリーチ活動風景。日本の伝統文化である「水引」と「結び目」のコラボレーションイベントを開催した。研究成果が何かの役に立つことはあくまでも結果であり、それが目的でなくてよい。小鳥居准教授は「“なぜ?”という自分の純粋な疑問や興味から、真理を突き詰めていく研究の魅力を学生にも知ってもらいたい」と語る。※FE:future earth(フューチャーアース)の略。地球環境研究に関わる科学者の国際的なネットワークです。3Dプリンターで作製した結び目の模型。「三葉結び目」(左)は最も代表的なキラルノットだ。「トーラス結び目」(下)には多くの種類があり、自明なものを除き、すべてキラルノットである。高校での出張講義では、大学での学びや研究の説明のほか、VRを使ったトポロジーや結び目の体験学習も。SDGs17の目標のうち、「目標4(質の高い教育をみんなに)」、「目標16(平和と公正をすべての人に)」に優先的に取り組み、SDGs全目標に貢献するという姿勢をイメージしたデザインです。ネットワーク型研究拠点広島大学FE※・SDGsネットワーク拠点Network for Education and Research on Peace and SustainabilityKOTORII YUKA専門研究分野トポロジー、結び目理論広島大学FE・SDGsネットワーク拠点(NERPS)は、本学に限った組織ではなく、広く世界に開かれたネットワーク拠点であり、次の3つの特徴を持つ教育研究拠点になることを目指しています。1 国際通用性のある研究力に裏づけられた平和、地球環境、SDGsに関係する研究拠点2 人文社会科学の研究者も参加する問題解決型教育研究拠点3 個人、NGOs、企業、政府、国際機関など多様なアクターがグローバルに連携する教育研究拠点09小鳥居 祐香世界トップレベルの 紐の形を考える数学靴

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る